「お前のことが好きなんだ!オレと付き合ってくれ!!」
突然、告白してきた男。それを聞いて騒ぎ出す周りの連中。
どいつもこいつも顔を真っ赤にしている。それもそのはずだ。
今は飲み会中。周りにいるのはみんな酔っ払い。
耳に入ってくるのは馬鹿共の戯言ばかり。相手にするだけ時間の無駄。
ゆえには、
「寝言は寝て言え」
ニッコリと微笑んで、そう言った。
みんな突然の言葉に頭が廻らない様子。
そんなアホ面集団を鼻で笑った後、は鞄を持ってその場から立ち去り、すぐさま居酒屋から外に出た。
会費は先に払っているし、幹事は仲良い友達。電話すれば問題はない。
大きなため息をつきながら、は小声で呟いた。
「……やっぱり参加しなければよかったな…」
愚痴をこぼしても仕方がない。それは分かっている。
だが、それでもこぼしたくもなる。
今日は大学のサークルの飲み会で、本当は参加しないはずだった。
それなのに、友達から「人数足りないの!お願い!」と言われて仕方がなく参加したのだ。
まぁ、「参加費安くするし、好きにしていいから!」と言われて、断れなかったのだが…。
ちなみに、"好きにしていい"とは、"二時間飲み放題コースのメニュー以外の料理・お酒を頼んでいい"ことだ。
それが目当てで飲み会に参加しただが、良いことは何一つ無かった。
質問攻めにされるし、お酌しろと言われるし、挙句の果てに顔も見たことない・名前も知らない男に告白されるし。
結局、美味しい料理・お酒を楽しむことはできなかった。思い出しただけで気分が悪い。
「はぁ………」
もう一度、大きなため息をつくと、は鞄から携帯電話を取り出した。
数回ボタンを押し、電話をかける。
五回ほどコールして、ようやくつながった。
『もしもーし』
「乱菊。今、大丈夫?」
『大丈夫よ。それより、今どこにいるの?』
「店の外。私、帰るから」
『えっ?一人で帰るの?もう少ししたら終わりだし、私も一緒に帰れるわよ?』
「大丈夫。一人で帰れる」
『でも……』
「大丈夫だよ。明るい道通って帰るから」
『……そう。気をつけてね?何かあったらすぐ電話するのよ?』
「分かった。心配してくれてありがと。じゃ、またね」
電話を終えると、は目を閉じた。
深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
そして、自分のアパートに向かい、歩き出した。
後ろを振り返ることは、一度もなかった。
は帰路をまっすぐ歩いていた。
街灯が等間隔に設置されているが、今夜は月が雲で隠れているので薄暗い。
早く帰ろうと思い、歩くスピードを上げようとした、そのときだった。
コッ、コッ、
ざっ、
背後から足音が聞こえた。
辺りに響く二つの足音。
一つは、もう一つは別の誰か。
気のせいだと思いたいけれど、そうは思えない。
もう一つの足音が後ろにいる誰かの存在を知らせている。
さっきからずっと同じ方向を進んでいる。
それだけならいい。どこかに行ってしまえと強く心の中で願った。
けれど、
コッ、コッ、コッ、
ざっ、ざっ、
その願いが叶うことはなかった。
が早く歩いても、後ろも同じように早くする。
ピッタリくっついて離れない。
逃げようと思い、はさらにスピードを上げた。
だが、後ろはそれ以上にスピードを上げた。との距離を一気に縮める。
そして……。
「きゃあああ!!!」
は腕を掴まれてしまった。
必死に抵抗し、その手を振り払おうとするが、駄目だった。
「可愛いー」
聞こえた声。それは聞いたことのある声だった。
恐る恐る振り返ると、そこにいたのは居酒屋でに告白してきた、彼だった。
と目が合い、彼はニヤリと笑みを浮かべる。
は再度抵抗するが、彼はを離そうとしない。
「なんで逃げようとすんのー?」
「離して!!」
「ひどいなー、ちゃん」
彼に『ちゃん』と呼ばれた途端、全身に悪寒が走った。
体も、心も、彼を拒絶している。それなのに、彼は距離を縮めようとしている。
体が動かない。力が入らない。
怖くて、怖くて、声が出ない。
それでも、
『誰か……助けて!!!』
は心の中で叫んだ。
刹那。
ガッ
何が起こったのか、分からなかった。
唯一分かることは、呪縛から解放されたということ。
ドクン、ドクン、と鼓動が伝わってきて、痛いくらいだった。
「行くぞ!」
そう言われて、手を掴まれた。
嫌だとは思わなかった。温もりがとても心地よかった。
しばらく走って、小さな公園に入ったところで、ようやく足を止めた。
何度も尾深呼吸を繰り返して息を整えると、はようやく顔を見上げた。
ちょうど姿を現した月。優しい光が夜を照らす。
助けてくれたのは自分よりも小さな男の子で、銀色の髪がキラキラと輝いている。見惚れてしまうほど、すごく綺麗だった。
「大丈夫か?」
「……あ、うん。助けてくれてありがとう」
「別に…」
がお礼を言うと、男の子はぷいっ、と顔をそらした。
気を悪くしたかなと思ったが、そうではないらしい。
顔を赤くしている男の子。どうやら照れているようだ。
は目の前の男の子のことが知りたくなって、笑みを浮かべながら尋ねた。
「私、。貴方の名前は?」
「……日番谷冬獅郎」
「冬獅郎か。カッコいいね」
「……………」
がそう言うと、冬獅郎はますます顔を赤くした。
今度は後ろを向いて、絶対に顔を見せようとしない。
はそんな冬獅郎が可愛くて可愛くて仕方がなかった。
終