頼まれたら断れなくて、どんなことにも一生懸命で、いつだって笑っていて。
いつから始まっていたのか分からない。
気付いたらアイツのことが気になっていた。
授業が終わって間もないのに、休み時間は十分間しかないのに、アイツの周りにはたくさんの人が集まっている。
その理由はひとつしか無ぇ。
「さーん。お願いがあるんだけどー」
「はい、どうぞ」
全部言う前に、アイツはノートを手渡す。
それは次の授業のノート。
頼んだ奴はノートを受け取ると自分の席に戻った。どうせ宿題写してんだろ。
「、掃除当番代わってくんねぇ?今日用事あんだよ」
「うん。いいよ」
「さんきゅ!よろしくな!!」
掃除を頼んだ奴は仲良い連中のところに戻ってく。
そっちのほうからクスクス笑い声が聞こえてきて、イライラした。
キーンコーンカーンコーン
授業が始まるチャイムが鳴った。
それと同時に、教師が入ってきて、みんな慌てて自分の席に着いた。
……てか、アイツからノーと借りた奴、返してなくねぇ?
「昨日の宿題、黒板でやってもらうからなー。まず一番を、…………、最後は日番谷」
普通に授業始まったし。
しかもアイツ当てられたし。俺もだけど……。
席から立てずに俯くアイツ。
周りから聞こえてくる笑い声。
見てられねぇ。聞きたくねぇ。
ガタン
教室に響く席を立つ音。
クラス全員の視線が俺に集中する。
机と机の狭い間を歩いていき、黒板の前に立った。
自分のとアイツの。二人分の問題を解いて、アイツの席の前に立った。
「日番谷?どうした?」
「先生、すみません。こいつ、体調悪いみたいなんで、保健室連れて行きます」
「えっ?」
「ほら、行くぞ」
俺はアイツを無理やり立たせると、教室を後にした。
向かう場所は保健室ではなく、屋上だった。
「お前、何で断らねぇんだよ!」
屋上に着くと、俺は叫ぶように尋ねた。
だが、アイツはきょとんと首をかしげながら、言う。
「"誰かが困ってたら助ける"それは当然のことだよ?」
「利用されてるだけだろ!!」
「そうかもしれないね。でも、私は……」
キーンコーンカーンコーン
鳴り響くチャイム。
アイツは背伸びをすると、俺のほうを見た。
「教室に戻ろー」
「……先に行ってろ。俺、もう少ししたら行くから」
「分かった。じゃ、また教室でねー」
アイツはにこっと笑って、屋上から出て行った。
一人になって、静かになって、俺は空を見上げる。
さっきのアイツの言葉が心に響いて、離れない。
「私は『ありがとう』って言われることが嬉しいの。それだけで十分なの」
すごいと思う。
誰かのために一生懸命になれるアイツは、本当にすごいと思う。
誰かが困っていたら助けるのは当たり前のこと。
そう思えて、そう言えて、それを実行できるアイツ。
そんなアイツを気になっている俺。
気になって気になって仕方がない理由は……。
「俺、アイツのことが好きなのか…」
俺の小さな呟きは、誰に聞かれることなく、空にとけて消えた。
終