聖夜




護廷十三隊十番隊隊長日番谷冬獅郎。
史上最年少で隊長に就任した神童。
身長のことは一番の悩みで、流魂街の祖母から言われた「寝る子は育つ」を忠実に実践している。
そんな彼の、ある日・・・の過ごし方は……。


「たいちょー。知ってます?今日はクリスマスなんですよー」

隊首会から戻ってきた日番谷に、乱菊はとても楽しげに話しかけた。
いつもならどこかにサボりに行っているのに。
『珍しい』と思いながら、『何かある』と確信しながら、日番谷は応える。

「それがどうした」
「ということで、今日は仕事は休みましょう?」
「却下だ」

日番谷は、乱菊にそうはっきり言って、自分の席に着いた。
そして、すぐさま仕事を始める。

「年末で仕事は山ほどあんだ。休めるわけねえだろ」
「えー。休みましょうよー。宴会しましょうよー」
「うるさい。つべこべ言わずに仕事しろ」
「隊長のけちー!!」

日番谷の機嫌は悪化する。
だが、乱菊に「けち」と言われたから…もあるが、原因は別のことだった。
優秀な部下で最愛の恋人であるがここにいないからだった。
理由は単純明快。任務で現世に行っているのだ。


「十番隊第三席。これより現世へ出発します!」
「ああ。気をつけろよ」
「はい!行ってきます!」

は満面の笑顔を浮かべている。
日番谷は、そんなにそっと近寄り、にだけ聞こえるように小さく囁いた。
それを聞いたは、頬を赤らませながら頷いた。
そのときのは、日番谷にだけ見せる表情かおをしていて、それを見た日番谷は満足だった。
だから、日番谷は笑顔でを見送ることができた。


『すぐに帰ってくる』と思っていた。
けれど、ここにの姿はない。
……本当は、昨日帰ってくるはずだったのに。

『××地区で虚が大量に出現。現世に駐在している隊士の皆さんと合流し、虚を退治します』

から、そう連絡が入った。
××地区は十番隊の担当区域ではないのに。
日番谷は『他の隊士に任せればいいのに』と心の中で思った。
だが、『らしい』とも思った。

『困ってる奴がいたら放っとけねえ。誰かのために一生懸命になれる。アイツはそういう奴だから』

クリスマスを一緒に過ごしたかった。
仕事なのだから仕方がないとは思っている。
けれど、平気でいられるほど日番谷は強くはない。
に会いたくてたまらない。



「今日はもう終わっていい。今日はクリスマスだしな。ゆっくり過ごせ」

そう言って、日番谷は乱菊をはじめとする隊士達を早めに帰らせた。
いつも頑張っている部下へ、ささやかなクリスマスプレゼントだった。
隊士達は全員で「ありがとうございます!!」と日番谷にお礼を言い、それぞれ執務室をあとにした。
皆、とても幸せそうな顔をしていて、それが日番谷の心に焼きついた。
日番谷は、誰もいなくなった執務室で、一人空を見上げる。
夕方の朱色から夜の闇色へと変わっていた。
月は見えない。代わりに、小さな星がキラキラと輝いている。
日番谷が何も言わずに空を眺めていると、


「綺麗だね」


声が聞こえた。
途端、日番谷の中で、ドクンと音を立てて、脈打つ。
熱い血液が全身へと運ばれていく。
日番谷がゆっくり振り返ると、が笑っていた。

「ただいま。冬獅郎」

の温かな笑顔を見て、日番谷はようやく笑うことができた。

「おかえり。

今日はクリスマス。
大切な人と一緒に過ごす特別な日。
あなたは今年のクリスマスをどう過ごしましたか?



(おまけ)
「間に合ってよかった」
「何がだ?」
「メリークリスマス!冬獅郎!」
「えっ?」
「これ、プレゼントだよ!」
「…ああ。ありがとう…。……でも、俺、何も用意してねえ…」
「いいよ。気にしないで」
「だが……」
「じゃ、こうしよう!今日あと残りの冬獅郎の時間、私にちょうだい?」
「いいのか?そんなんで…」
「いいの!冬獅郎のそばにいられなかった分、一緒にいてほしいの!」
「いいぜ。一緒にいてやるよ」










 (08.12.25)

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