はじめまして。私はと申します。姓は日番谷です。
護廷十三隊十番隊隊長日番谷冬獅郎の妻です。
…えっ?私たちの馴れ初めですか?
……それはお答えできません。
旦那様…冬獅郎さんに叱られてしまいますので。すみません…。
私たちの住まいは瀞霊廷内にあります。
ですが、冬獅郎さんは流魂街出身の方。ご実家が西流魂街第一地区・潤林安にあります。
そちらには冬獅郎さんの祖母・おばあちゃんが暮らしていらっしゃいます。
…本当は、冬獅郎さんとおばあちゃんと私、みんなで暮らしたいと考えていました。
けれど、瀞霊廷に暮らすことができるのは、貴族の方々と死神の方々など、限られた人だけ。
流魂街出身で霊力を持たないおばあちゃんは、瀞霊廷に入ることさえできません。
流魂街のご実家に住むことも考えましたが、おばあちゃんに反対されてしまいました。
冬獅郎さんのことを考えると、三人一緒に暮らすことはとても難しいことでした。
けれどおばあちゃんは「いつでも遊びにおいで。待っているよ」と言ってくれました。冬獅郎さんも了承してくださいました。
それ以降、私はおばあちゃんのところに遊びに行くようになりました。
一緒にお茶を飲んだり、お菓子を食べたり、お料理を教わったり、お話したり。
それだけでも楽しいのですが、冬獅郎さんと私。二人でおばあちゃんに会いに行くときは、格別です。
何か特別なことをするわけではありません。
三人でのんびりと時間を過ごす。それだけで私は幸せなのです。
冬獅郎さんも同じ気持ちでした。
「月に一度は二人でばあちゃんに会いに行こう」
帰り道。冬獅郎さんは私にそうおっしゃいました。
おばあちゃんに会いに行くことは、冬獅郎さんと私の大切な時間になりました。それは今も続いています。
今月は12月。いつもとは違って、特別なことをしようと思っています。
冬獅郎さんには内緒で、おばあちゃんと私はある計画を立てているのです。
12月に入ってまもなく。私は、何気なく冬獅郎さんにお聞きしました。
「今月はおばあちゃんのところに行けそうですか?」
冬獅郎さんは十番隊隊長。
ひとつの隊をまとめるという、とても大変で、とても大切なお仕事をされています。
ゆえに、おばあちゃんに会いにいけない場合もあります。
「そうだな。年末だし、かなり忙しいな。だが、何とかして時間を作りたいと思ってる」
「そう…ですか…」
それを聞いて、私は『やっぱり』と心の中で呟いた。
最近、冬獅郎さんのお帰りが遅いのは、そのせいだったのですね。
おばあちゃんに会いに行くために、一生懸命仕事をしていたのですね。
無理をしていないか、心配です。
すると…。
「大丈夫だ。無理はしてねえから。心配すんな」
そう言って、冬獅郎さんは私の頭を優しく撫でてくれました。
私は「はい」と言って、笑いました。
やさしく触れる冬獅郎さんの手が好きです。
温かく笑みを浮かべるときの冬獅郎さんの瞳が大好きです。
冬獅郎さんは私の心を幸せいっぱいにしてくれるのです。
「ばあちゃんのところ、いつ行きたい?」
私が幸せいっぱいで惚けていると、冬獅郎さんは私に尋ねてきました。
行く日にちは私が決めていいそうです。
私の答えは決まっています。
「20日に行きたいです」
「20日?」
「……駄目ですか?」
今月はその日に行きたいのです。その日でないと駄目なのです。
私は心の中で一生懸命お祈りしました。『20日に行けますように』と。
冬獅郎さんの答えは…。
「良いぜ。20日は非番にしとく」
「本当ですか!?」
「ああ。約束する」
「ありがとうございます!冬獅郎さん!!」
嬉しさのあまり、冬獅郎さんに抱きついてしまいました。
そして、私は冬獅郎さんにお礼を言いました。何度も何度も言いました。
私の行動に、冬獅郎さんはびっくりしていました。
少し呆れられてしまったかもしれません。
ですが、それでも私は構いません。私は本当に嬉しかったのです。
それからあっという間に時間は過ぎて、20日になりました。
その日、冬獅郎さんは非番を取ってくださいました。しかも一日中です。
それを聞いて、私はまたお礼を言いました。
冬獅郎さんは、私との約束を守るために、一生懸命仕事されていました。
朝早くお仕事に行って、夜遅くまで仕事して、本当に大変だったと思います。
冬獅郎さんの気持ちが、嬉しかったのです。
「さて。行くか」
「はい!」
冬獅郎さんと私は流魂街に向かいます。
その途中で、西瀞霊門の番人・児丹坊さんにご挨拶しました。
相変わらず大きな体で、それに負けないくらい大きな声で、児丹坊さんは笑っていました。
そのたびに地面が揺れていたような感じがしました。(たぶん気のせいではありません)
冬獅郎さんは笑っていました。
児丹坊さんは冬獅郎さんの大切なお友達。
お二人とも、とても嬉しそうにお話していました。
「またな。児丹坊」
「おう!まだな!」
互いに別れを告げ合う冬獅郎さんと児丹坊さん。
そして、冬獅郎さんと私は流魂街に足を踏み入れます。
すると、
「」
「はい?」
冬獅郎さんは私の名前を呼びました。
『何でしょう?』と思いながら首をかしげていると、冬獅郎さんは私の手を握りました。
冬獅郎さんは何も言わずにゆっくりと歩き出されたので、私も歩きます。
そして、私は冬獅郎さんの気持ちに気がつきました。
瀞霊廷は道が舗装されていますが、流魂街は違います。
ほとんど砂利道で、でこぼこしています。
冬獅郎さんは、私が転ばないように、手を握ってくださったのです。
しかも、私の歩く速さに合わせて、冬獅郎さんも歩いてくださっています。
なんだか緊張してしまいました。
それでも私は冬獅郎さんの手を離しません。離したくありません。
「冬獅郎さん」
「何だ?」
「ありがとうございます」
「…どういたしまして」
それから、私たちはおばあちゃんがいる実家に向かいますが、その前に、お店でお土産に甘納豆を買いました。
冬獅郎さんの好きな食べ物。おばあちゃんもお好きなのです。
私も大好きになりました。
「ただいまー」
「ただいま戻りました」
そうして私たちはおばあちゃんのいる実家に着きました。
中に入るとおばあちゃんが笑顔で迎えてくれました。
そして、机の上には美味しそうなお料理がたくさんあります。
「12月20日はね、冬獅郎の誕生日なんだよ」
「そうなのですか。では、何かお祝いしたいですね」
「去年は仕事が忙しくて家に帰ってこれなかったけど、今年はどうだろうねえ」
「今年は大丈夫ですよ。きっと」
「そうだねぇ…」
そう言って、おばあちゃんの笑顔は小さく、本当に小さくなりました。
とても寂しそうで、そんな顔をして欲しくなくて、私はおばあちゃんに言います。
「おばあちゃん!今年はみんなでお祝いしましょう?冬獅郎さんのお誕生日を!」
「そうだねぇ。楽しそうだねぇ」
「はい!私、12月20日に冬獅郎さんを連れてきます!だから、おばあちゃんはお料理を作って待っていてください!」
「…ちゃん。ありがとうねぇ」
「冬獅郎さん!お誕生日おめでとうございます!!」
今日は12月20日。冬獅郎さんのお誕生日です。
おばあちゃんと私。二人で頑張って計画・準備してきました。
冬獅郎さんは……喜んでくれるでしょうか?
「やっぱりな。こんなことだろうと思ってたぜ」
「えっ?気付いていたのですか?」
「当然だろ。お前のことなら何でも分かる」
やはり冬獅郎さんはすごいです。全てお見通しだったのですね。
ほんの少しですけど、悔しいです。
冬獅郎さんの驚く顔を拝見したかったのに。
けれど、
「さすが私の旦那様です」
どうでもよくなりました。
冬獅郎さんも、おばあちゃんも、とても嬉しそうに笑っているのですから。
そんな二人のおそばにいられるだけで、私は幸せなのですから。
「私は贈り物を用意しました。受け取っていただけますか?」
「もちろん。喜んで」
終