最近ずっとおかしいと思っていた。
体を動かすのも億劫で、食べ物の好みも変わって、匂いに敏感になった。
何より、吐き気が何日も続くなんてことは今までなかった。
それでも変わらない生活をしていたけれど、その日は特に酷かった。
始業早々、お手洗いに行って、吐いてしまったのだ。
「、大丈夫?」
「…………」
付き添ってくれた友達が声をかけてくれるけれど、それに答えることができない。
心身ともに参っているせいか、声も上手く出せない。
その様子を見た友達は、
「四番隊に行ってきな。事情は私から乱菊さんに言っとくから。ね?」
そう言っての背中にそっと手を置く。
静かに、優しく、触れる手。とても嬉しくて、それに答えたくて、小さく頷いた。
四番隊綜合救護詰所へと足を運んだは、ほとんど待たずに診てもらえることになった。しかも、四番隊隊長の卯ノ花に。
が「お忙しいのに、すみません…」と謝ったら、卯ノ花は「いいのですよ」と言ってにっこりと微笑む。
そして、の体に手のひらをかざして、診察を始める卯ノ花。その結果は、すぐに出た。
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「…失礼します」
夜、十番隊隊舎・執務室にやってきた。
日番谷はまだ仕事中だったが、を見るや否や優しい微笑みを返した。
をソファに座らせて、手にしていた筆を置き、その隣に座る。
「そういえば、今日は四番隊に行ったんだってな。大丈夫か?」
「…………」
「?」
執務室に入ってからずっと黙ったままの。そんなに日番谷は顔を近付けるが、うつ向いているため表情がよく分からない。どうして黙っているのか、何かあったのか、何一つ分からない。
日番谷が理由を聞こうとした瞬間、
「冬獅郎。あの、ね…」
ようやくが話しかけた。うつ向いたままの状態で、自分のお腹に手を当てる。
そして、心に思っていることをそのまま言葉にする。
「……出来た、の…」
「何がだ?」
「……赤ちゃん」
「…………」
日番谷の耳に飛び込んできた、の言葉。驚きすぎて声が出せなかった。
今の気持ちを言葉にしたいのに、出来ない。そんな状態がもどかしくて、そんな自分が情けない。
けれど、
ぎゅっ
それでも伝えることはできる。
両の腕をの背中にまわして、日番谷は力いっぱい抱き締める。
『ありがとう』
ありったけの感謝の気持ちを伝えたかった。
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「……触ってもいいか?」
「どうぞ」
「……すっげぇな」
「…そう?」
「この中にいるんだよな」
「…うん」
「……すっげぇな」
「冬獅郎、さっきから『すごい』ばっかり言ってる」
「仕方ねぇだろ。本当にそう思うんだから」
「うん。でも、本当にそうだね。すごいよね」
「」
「なぁに?」
「愛してる」
「……私も、愛してます」
終