「この世に真実はあると思うか?」
「…は?」
の話はいつも唐突だ。
この前は「どこからが空で、どこからが宇宙だろうな」だったし、その前は「昼寝の時間があれば仕事の能率が上がるんじゃないかな」だった。
そんな話を聞くたびに『くだらない』と思ったが、そのまま言葉にしない。
その代わりに、大きくため息をついて、言う。
「…真面目に仕事しろよ」
「今日の分はもう終わった」
「……マジかよ」
「マジだ」
そう言うと、Vサインする。
ずっと話しながら仕事していたのに、早すぎる。
そう思ったことが伝わったらしい。勝ち誇ったように笑って、は言う。
「さて、さっきの続きしようか」
「俺は終わってねぇ」
「明日やればいいだろ」
「そういう問題じゃ…」
「明日にしろ。隊長命令だ」
「…職権濫用」
「あははははー」
は一度言ったら聞かない。
わがまま、とは少し違う。ほんの少しだが、違うと思う。
は何も捕われずに、ただ自分の心のままに生きているだけだ。
そんながすごいと思う。決して言葉にしないが、心の中ではそう思っている。
「で、今日は何だよ」
「この世に真実はあると思うか?」
「あるんじゃねぇ?」
「何でそう思う?どこにあると思う?」
「…………」
今日はいつもとは違い、立て続けに質問する。それに対して、どう答えればいいか分からない。
そんなことを真剣に考えたことはないし、意識したこともなかった。
そんな様子を察してか、は「んー。そうだなー」と呟いた後、ある話を始めた。
「たとえば、夜空を見上げて晴れてたら星があるよな」
「…ああ」
「星は宇宙にあって、私たちと同じように生きている。だから、命が尽きたらその姿も消える」
「……そうだな」
「それが、私たちが持っている知識で、そう信じている常識。だけど、本当にそうなのか?宇宙に行ったことも星が消える瞬間を見たこともないのに、どうしてそうだと言える?どうして真実だと言える?」
「………」
「だから疑問に思ったんだ。本当に真実はあるのかな、ってな」
「…………」
にそう言われて、ますます何にも言えなくなってしまった。
真実なんてものはどこにもないのかもしれない、と思ってしまったから。
だが、それでもそれを口にしたくなかった。そんな悲しいことを認めたくなかった。
『俺は…』
深く息を吸い、吐き出す。そして、自分の心に問いかける。
の問いに答えるために、今の気持ちを正直に言葉にする。
「真実はどこにあるのか、よく分からねぇ。だが、この世界には嘘や偽りしかないなんて思いたくねぇ」
目に見えるもの、耳に聞こえるもの、肌で感じるもの、全て嘘偽りだと思いたくもない。
絶対どこかに真実はある。そう信じたいし、そうあって欲しいと思う。
への答えになっていないと思う。だが、それでもこれが自分で考えて納得した答えだ。
「そっか」
その答えを聞いて、は笑った。とても満足そうな笑顔だった。
そして、
「よし、今日はもう帰るか」
ぐぃーっと背伸びをしながら立ち上がると、やわらかな笑みを浮かべた。
「冬獅郎、ご飯一緒に食べないか?」
「場所は?」
「どこかの店に食べに行ってもいいし、私の部屋でもいいぞ」
「…いいのか?」
「冬獅郎がよければな。どうする?」
「……部屋」
「りょーかい。じゃ、行くか」
執務室から出ていく二人。
「何食べたい?」や「何が好き?」など、話をしながらの部屋に向かう。
二人とも笑っていて、そばにいられて幸せだと分かるような、やわらかな笑顔だった。
真実がどこにあるのか、なんてよく分からねぇ。
だが、これだけは分かっているし、はっきりと言える。
この先、どんなことがあってもお前がいれば大丈夫だ。
だから、二人で歩んでいこう。これからも、ずっと。
終